今回は『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』のあらすじや見どころをご紹介していきます。また、本書を読んだ感想や気になったポイントの考察をしているので、読んだ方にもぜひ楽しんでいただきたいです。
前半部分では、ネタバレNG/OK両方の方に読んでいただける内容ですが、後半の感想や考察パートは、若干ネタバレが含まれますので、ご注意ください。
始めて挑戦した長編ミステリーでしたが、文体も読みやすく、感情移入しやすかったため、とても面白かったです。どこにでもあるような小さな観光地で起きた殺人事件と、町おこしプロジェクトが絡み合い、最初から最後まで楽しむことができます。
- ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人のあらすじが分かる
- 見どころや登場人物を知ることができる
- 感想や考察を楽しめる
- 作者や発刊年などの基本情報が整理されている

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人のあらすじと見どころ
まずは、ブラックショーマンと名もなき町の殺人のあらすじと見どころをご紹介します。また、登場人物についても整理していきます。
- あらすじ
- 口八丁手八丁な武史の推理と2つの事件の交錯
- 登場人物とそれぞれの関係性
あらすじ
観光地として少しだけ有名な町。わざわざ訪れるほどではないが、全く何もないわけではない。そんなどこにでもあるような町で、殺人事件が発生する。
被害者は地元中学の元教師で、卒業後も教え子が訪ねてくるほど慕われていた。殺される前も、卒業生の頼みを聞いたり、同窓会に誘われたりしていた。その同窓会を企画していたのが、主人公である神尾真世のクラスであった。
自分の父親が担任ということで、気まずい思いをした真世は同窓会への参加に後ろ向きだったものの、父が殺されたことで帰省すること。いつもと変わらない町には、2つの変化があった。
1つはコロナによる外出規制によって、これまで以上に活気なく見えたこと。もう1つは、この町を舞台にした大ヒット作品『幻脳ラビリンス』を使った町おこしがコロナの影響でとん挫したことだった。
幻脳ラビリンスの作者は真世と同級生であり、聞くと町おこしプロジェクトを進めていたのも元同級生だという。真世の叔父である神尾武史は、兄(真世の父)を殺した犯人を警察より先に見つけるため、あの手この手を駆使していく。
こうして真世は、殺人事件の捜査と町おこしプロジェクトに巻き込まれることに。。。
口八丁手八丁な武史の推理と2つの事件の交錯
叔父である武史がマジシャン時代に培ったコミュニケーション能力と手癖の悪さで、おもしろいように情報を引き出していく様は最高です!!
調べた感じエリシテーションと呼ばれる手法が近しいのですが、会話の流れでそれっぽい話を振り、相手の本心や情報を巧みに引き出していきます。

英一から何も聞いていなかったにも関わらず、酒屋を営んでいる原口浩平が英一に相談していた内容を明るみにしていく手法は鮮やかであり、この手口の説明を兼ねているような分かりやすさですので、ぜひ本編をみていただきたいです!
手癖の悪さはいわゆるマジシャンから連想されるもので、指の動きから暗証番号を読んだり、スマホを盗んだり、カメラや盗聴器をつかって情報収集したり、とやりたい放題していますw
そして、最初は薄いつながりしかなかった殺人事件と町おこしプロジェクトでしたが、少しずつ絡みだし、最後にはキレイに融合していきます。この盛り上がりが最高潮になる瞬間が、しっかり種明かしのタイミングと重なるため、惰性で読むシーンはなくエピローグまで楽しむことができます。
登場人物と相関図
主人公の身内
・神尾真世
建築会社で働く主人公。結婚式の準備を進めつつ、同窓会に参加するかどうかを悩んでいたところ、父であり同窓会メンバーの担任でもあった父が殺害され、帰省することに。
・神尾英一
主人公の父であり、殺害された被害者。以前は中学教師として勤めており、生徒からも慕われていた。
・神尾武史
主人公の叔父であり、殺害された被害者の弟。アメリカでマジシャンとして活躍していたが、現在はバーを経営している。マジシャンとして培った技術と地頭の良さで犯人を絞り込む。
・中条健太
主人公の婚約者で、建築会社勤務。婚約者であるものの、主人公とは微妙な空気が流れている。
主人公の同級生
・針宮克樹
マンガ「幻脳ラビリンス」の作者で、町おこしの中心となる人物。のび太と形容されることがあり、中学時代はいじめのターゲットになることも。
・九重梨々香
大手広告代理店に勤務。釘宮が「幻脳ラビリンス」をヒットさせた後、同じ中学出身という事もあり、マネージャーとして動くようになる。しずかちゃんと形容されることあるが、容姿に対してであり、性格は結構異なる。
・柏木広大
地元の建築会社の副社長で、「幻脳ラビリンス」を利用して町おこし計画の中心人物。ジャイアンと形容されることがあり、雰囲気もジャイアンに近しい。
・牧原悟
地方銀行の行員。存在感があるわけではないが、お金関係の話には必ずかかわってくるため、印象には残る。スネ夫と形容され、柏木(ジャイアン)と一緒にいることも多い。
・杉下快斗
東京でIT企業を経営しており、同窓会のために帰省中。エリート杉下や出木杉君と形容されるが、嫌みを含んだ表現であることも多い。
・津久見直也
中学時代に白血病となり他界。釘宮の親友であり、学生時代は主人公に好意を寄せており相思相愛に近いしい関係。正義感が強く、同級生の中で最もリーダーシップが強かった人物。
・原口浩平
酒屋を営んでいる事件の第一発見者。思ったよりも登場回数が多くない。
・沼川伸介
居酒屋を経営している。居酒屋で一堂に会すシーンが印象的だが、あまり登場することはない。
・本間桃子(池永桃子)
今は少し疎遠になっているが主人公の親友であり、同窓会に誘ってくるためおそらく最初に登場する同級生。葬儀の受付係を担当するなど、主人公を支える。
警察
・木暮
県警本部の警部あり、キツネ顔が特徴。主人公やその叔父とやり合うシーンが多く、嫌われる刑事役。
・柿谷
地元の刑事課の係長あり、殺害された被害者の教え子。主人公に親身なるシーンが多く、好かれる刑事役。
その他主要登場人物
・池永良輔
桃子の夫であり、被害者の教え子。同級生中心の物語と思いきや、意外と登場シーンが多い。
・森脇敦美
被害者の教え子であり、有名な実業家の娘。町おこしプロジェクトに多額の支援金を出した父が他界したことで、巻き込まれるかたちに。
ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人の感想と考察
ここからは、本作を読んだ感想や考察をしていきます。一部ネタバレが含まれますのでご注意ください。
- 初めてがこの作品で良かった
- 九重と杉下はしっかり罰を受けたと思う
- 殺さずに済みそうなところがリアル
- 真世と健太のその後について
初めてがこの作品でよかった
長編ミステリーというのを初めて読んだのですが、初めてがこの作品でよかったと強く思っています!
物語そのものが面白いのはもちろん、ご都合主義的な展開もなく、ミステリーとしてすごく面白かったです!!
加えて、話の内容も分かりやすく文章表現も易しいものが多かったため、言葉が難しすぎて頭に入ってこない・・・みたいなことは一切なく、離脱しそうになることもなかったのはかなりポイント高いです。
本の表現に慣れていないと、普段使わないようなカッコいい表現が並ぶ作品は、意味が分かっても想像するのに時間がかかったり、漢字の読み方が分からなかったり、とストレスが溜まってしまうため、ミステリーに集中できない、という問題がありますが、とことん物語に集中できたのはよかったです。
また、長編の推理小説ならではの人物描写や物語の進行速度が魅力でした。
口コミを見ると物語の進展があまりない部分の描写が長く感じられるという声もありましたが、個人的にはそれこそ魅力に思えました。真世が1週間を長く短いと振り返るシーンがありますが、日常シーンが散りばめられていたことで、その心境に共感することができました。
そして、話の長さと物語上の重要度が一致しないのも良かったです。
殺人事件や町おこしとは直接関係ないサイドストーリーも並行して進むため、既定路線のようなものがなく、「あれはどういう事だろう?」「ということは○○なのか?」と考えているうちに新しい要素が出てきて、推理する楽しさを感じることができました。
改めて振り返ってみても、勘のいい人は真相に辿り着けたと思うので、ミステリーとしてもよくできていたんだと思います。
また、殺人事件の犯人を捜す過程で、関係者の知られたくない秘密が明るみになっていく過程は、実際の事件の調査でもありそうで、作品にのめり込める要素にもなっていたと思います。
九重と杉下はしっかり罰を受けたと思う
本編では触れられませんでしたが、九重梨々香と杉下快斗はしっかり罰を受けたのも良かったと思います。さすがに、釘宮だけ不幸になるのはかわいそうです。。。
- 不倫がバレたことによる家庭問題
- 釘宮の同級生という強みを失った
- ゲーム制作に費やしたコストが無駄になった
思いつくだけでもこれだけあります。
1つ1つが個人にとっては大事件ものなので、3つも重なるのは釘宮に対する裏切りの代償として十分なものだと思います。九重は昔と同じ感覚で釘宮を使っていましたし、杉下もずる賢い立ち回りをしていたので、なるべくしてなった結果だと思います。
殺さずに済みそうなところがリアル
改めて犯行動機について考えてみると、殺さずに済んだよなと思えることがリアルに思えました。
英一は決して物分かりが悪いわけではないため「出来心で原案をパクってしまい後に引けなくなった」と正直に伝えていれば、おそらく公にはしなかったと思います。なんなら、釘宮の心の傷や重りを軽くしてくれた可能性すらあります。
しかし、釘宮にとってはようやく掴んだ成功であり、今の環境を絶対に手放したくなかったということは容易に想像できます。絶対にバレたくない秘密であり、いつかバレるかもしれないという不安が、冷静な判断を奪ってしまったという着地はあっけなくも、空しくなる終わり方でした。
そうはいっても、学生時代にあまり良い思い出がなかったであろう釘宮には幸せになってほしいと思っていましたし、これまでとは作風が大きく変わり大ヒットしたといういかにもな話も、ミスリードであってほしいと願っていました。
今にして思うと、こんなことを思っていたのは、直感的に釘宮が犯人だと感じてしまっていたんだと思います。。。
真世と健太のその後について
健太が浮気をした、もしく以前付き合っていた女性との間で、起こしたかもしれない中絶トラブルによって、真世と健太の関係はギクシャクしてしまいますが、その結末が語られぬまま、物語は幕を閉じます。
ここから先を個人的に考察していきますが、結論、2人の関係を壊そうとした第三者による嫌がらせだと考えます。おそらく、健太に惚れており別れさせたいと思っている誰かが犯人のはずで、そう考えた理由をまとめていきます。
前提として浮気だったかどうかですが、これはおそらくないと思います。メールの中でも以前付き合っていたという旨の記載があり、浮気をするような人物であれば武史が気づき許さないはずだからです。
そのため、以前付き合っていた女性と中絶トラブルを起こしたかどうかを考えていきます。
まず、健太と武史が2人きりになっていろいろと話した際、健太は女性の好みや過去の恋愛について武史の話術にハマってペラペラと話してしまいます。その結果、武史には次のように評されます。
「彼は真面目で正直な男だ。それは間違いない」
「問題は、過ぎたるは及ばざるがごとし、ということだな」
真世自身も健太のことをお人好しと評していることから、正直な人物であることは間違いないと思います。ですので”過ぎたるは及ばざるがごとし”の部分がポイントとなります。
ここについては、素直に”真面目で正直”という部分にかかっている言葉と捉えて良いと思います。つまり、話術にハマりすぎてなんでも話してしまった、という騙されやすい人柄のことを皮肉り、姪の結婚相手として不安に感じてしまったのだと思います。
次に、メールに記載されている健太の行動を見てみましょう。
妊娠したことを知らされた健太は険しい顔つきで次のように答えます。
「今、子供を作るのはまずいよ」
そして避妊をせずに行為をしたことを責めると謝ることしかせず、
「お金は出すから今回は堕ろしてほしい」
と伝えています。その際、次にできた時には結婚して産もうと約束しますが、それ以降は避妊を徹底するようになり、別れるに至ったようです。この行動は、武史が感じた健太の人柄とはかけ離れており、どちらかが嘘をついていることになります。
本作では、武史の見立てはことごとく当たっており正解のように扱われているため、メールの内容が嘘であり中絶トラブルはなかったと考える方が自然です。
メールの内容が嘘だと思う理由についても2点触れておきます。
まず1つ目(こちらが根拠の大半)ですが、健太は真面目で正直で簡単に騙される人物です。武史に嘘を見抜かれず、誘導尋問に騙されたふりをした。という可能性も0ではありませんが、真世とのやり取りから見て取れる不器用さを考えると、さすがにないはずです。
そのため、メールに記載されているような、その場しのぎのアドリブを言えたり、女遊びができるようなタイプではなく、健太の人物像とズレてしまいます。
2つ目は、武史が話し合いの場を設けたからです。
おそらく武史は、真世と会う前に健太とも話をしているはずです。その後に、真世がモヤモヤしているメールを読み、予定通り2人に話し合いの場を提供したという事は、武史的には白の可能性が高いと判断したのではないでしょうか?
英一の件からも分かるようにお金にシビアな面があったとしても、姪である真世を悲しませるようなことは絶対にしない性格であるため、メールのようなことをする可能性があると判断した場合は、話し合いはさせずに別れさせるように動いたはずです。
ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人の基本情報と映画化について
最後に、基本情報やレビュー、映画化や続編についてまとめていきます。
- 発刊年・作者・出版社・ページ数
- レビュー
- 映画化と続編
発刊年・作者・出版社・ページ数
発刊年 | 2020年 |
作者 | 東野 圭吾 |
ページ数 | 444ページ |
出版社 | 光文社 |
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レビュー
2024年11月4日時点のレビューは次のようになっています。
Amazon:4.2(レビュー数443)
読書メーター:レビュー数622
Xの口コミもいくつか抜粋してみますが、高評価が多い印象です。
映画化と続編
ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人は映画化が決まっており、続編はすでにリリース済みです。
まず映画化ですが、福山雅治さんと有村架純さんを主演として2025年に公開される予定です。福山さんが叔父の武史、有村さんが真世を演じるようですが、イメージマッチしているため、今から楽しみです。
特に、武史のひょうひょうとした感じを福山さんがどのように演じられるのか気になります。
次に続編ですが「ブラック・ショーマンと覚醒する女たち」という短編ものが2024年の1月に発売されています。
名もなき町の殺人では長編ものでしたが、覚醒する女たちでは6つの話が収録されています。まだ読んでいないので分かりませんが、もしかすると真世と健太のことも触れられているかもしれません。
ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人のあらすじと感想・考察・見どころまとめ
- あらすじと見どころ
- どこにでもある小さな町で、元教師の殺人事件が発生
- 被害者は地元中学の元教師で、卒業生からも慕われていた
- 主人公の神尾真世は、父の死をきっかけに帰省し、事件の捜査と町おこしプロジェクトに巻き込まれる
- 真世の叔父である神尾武史は、マジシャン時代に手にしたスキルと持ち前の推理力で犯人を探し出す
- 見どころは「口八丁手八丁」で情報を引き出す爽快さと町おこしプロジェクトの交錯
- 主な登場人物
- 神尾真世: 主人公。建築会社勤務で、結婚式の準備中に父の死を知り帰省
- 神尾英一: 真世の父で、殺害された元中学校教師。生徒から慕われていた
- 神尾武史: 真世の叔父。元マジシャンで、現在はバーを経営。推理力で事件を解決に導く
- 中条健太: 真世の婚約者。建築会社勤務
- 針宮克樹: 「幻脳ラビリンス」の作者で、町おこしプロジェクトの中心人物。のび太
- 九重梨々香: 大手広告代理店勤務。釘宮のマネージャー的立ち位置に。しずかちゃん
- 柏木広大: 地元の建築会社副社長で、町おこし計画の中心人物。ジャイアン
- 牧原悟: 地方銀行員。スネ夫
- 杉下快斗: 東京でIT企業を経営するエリート。出木杉君
- 津久見直也: 真世の同級生。中学時代に白血病で他界
- 原口浩平: 酒屋を営む事件の第一発見者
- 本間桃子(池永桃子): 真世の親友
- 木暮: 県警本部の警部
- 柿谷: 地元の刑事課係長
- 池永良輔: 桃子の夫であり、被害者の教え子
- 森脇敦美: 被害者の教え子で、実業家の娘
- 感想と考察
- 長編ミステリーとして読みやすく、初心者でも楽しめる
- ご都合主義的な展開がなく、現実味のあるストーリー展開が魅力。
- 日常シーンが散りばめられており、物語に深みを与えている
- 殺人事件の関係者の秘密が暴かれていく過程が、実際の事件調査のようで面白い
- 九重梨々香と杉下快斗は、不倫が発覚し社会的立場を失うという罰を受けた
- 犯行動機がリアルで、殺人に至るまでの過程が空しい
- 健太の中絶トラブルは第三者による嫌がらせだと予想
- メールの内容と健太の人物像の乖離がポイント
- 基本情報
- 発刊年: 2020年
- 作者: 東野圭吾
- 出版社: 光文社
- ページ数: 444ページ
- Amazonでの評価は4.2(レビュー数443)、読書メーターでのレビュー数622。SNSでも高評価が多い
- 映画化決定:2025年に福山雅治と有村架純主演で公開予定。
- 続編: 「ブラック・ショーマンと覚醒する女たち」が2024年1月に発売