今回は『本を守ろうとする猫の話』の感想や考察をまとめていきます。
まだ読んだことがないという方に向け、前半ではあらすじや見どころをネタバレなしでご紹介していきます。後半の感想パートでは、若干のネタバレも入ってきますので、お気を付けください。
祖父を亡くした高校生とトラネコの不思議な出会いから始まる物語。読書について考えさせられることが多く、読み終わったころにはもっと「本を読みたい」と思わせてくれるはずです。
- 本を守ろうとする猫の話のあらすじが分かる
- 見どころや登場人物、明言を知ることができる
- 感想や考察を楽しめる
- 作者や発刊年などの基本情報が整理されている

本を守ろうとする猫の話のあらすじと見どころ
まずは本を守ろうとする猫の話のあらすじや見どころ、登場人物などの基本情報をみていきましょう。
- あらすじ
- 林太郎が語る本の魅力が見どころ
- 登場人物
あらすじ
祖父と二人暮らしをしていた高校生の林太郎。本屋を営む祖父の姿を見て育った林太郎は、自然と本が好きになり、同じ空間でおじいちゃんと本を読む時間を大切にしていた。
ある日、そんなおじいさんが他界してしまい、面識のない伯母の家に引き取られることが決まってしまう。
頭の整理が追い付かない中、何も考えないようにルーティン作業をこなしていると、目の前にしゃべるトラネコが現れる。不思議なほど堂々としたそのネコは、「本を救うのを手伝ってほしい」と林太郎に語りかける。
- 読書量が全てになってしまった男
- 要約し本の魅力を伝えることに取りつかれた男
- 売れる本にしか価値を見いだせなくなった男
一見正しそうな持論を持つ彼らから、本の世界を守る冒険が始まる。
林太郎が語る本の魅力が見どころ
”本”とは何か?”読書”とはなにか?この問いかけを林太郎と一緒に考え続ける
本書の魅力はこの一言に尽きると思います。
- 本を道具やお金としての扱ってしまう人々
- 読書ではなく知られている本を増やすことで文化を維持しようとする人々
こうした思想を持つキャラクターに対し、林太郎が一人一人真剣に向き合い、自分なりの答えを導いていく様子や、そうして絞り出された言葉には、言い表せないような力がこもっています。
そして、信念を持った人間同士の会話を通して、本や読書について考えさせられる一冊になっています。
僕が最も感動したのは、林太郎が同級生の柚木に伝えた言葉です。
「読みやすいってことは、それは柚木にとって知っていることが書いてあるから読みやすいんだ。難しいってことは新しいことが書いてある証拠だよ」
登場人物
・夏木林太郎
この本の主人公で、ごく普通の高校一年生。お店の本を全て把握している読書好き。冒険を通して、次第に逞しくなっていき次第に頼もしさを感じるようになります。
・トラネコ
堂々としており、少し意地悪な部分があるも憎めないキャラクター。その正体は謎に包まれている。
・秋葉良太
林太郎と正反対な性格の、1つ上の先輩。本好きという点は共通しており、祖父を亡くした林太郎を気に掛ける存在。
・柚木沙耶
幼馴染で学級委員長。なんだかんだ林太郎を気にかけており、冒険に巻き込まれることも。
本を守ろうとする猫の話の感想と考察
ここからは、具体的な感想や考察を書いていきます。
最初に本を読んで感じた感想を書き、各迷宮での話にも触れていきます。最後はトラネコの正体について僕なりに考えてみたものをまとめていきます。
若干のネタバレが含まれますので、未読の方はご注意ください。
- 読書は楽しいものである
- 第1の迷宮:閉じ込める者
- 第2の迷宮:切りきざむ者
- 第3の迷宮:売りさばく者
- 最後の迷宮:本に宿る心(仮題)
- トラネコの正体
読書は楽しいものである
この本が最も伝えたいことは、本は素敵なものであり、読書は楽しいものだということだと思います。
- 頭がよくなるから
- 読解力が身に付くから
- 仕事のヒントになるから
- 毎月〇冊は読まないと
- ・・・
本や読書に対して持っている印象は人それぞれだと思いますが、こういった価値観や言葉を聞いて育った方は多く、このような印象を持っている方も少なくないはずです。
『本を守ろうとする猫の話』では、道具として扱われる本を今一度見直し、純粋な気持ちで読んでみませんか?という投げかけがされているように思います。
読書量だけを追いかけ、要約された動画や音声を聞き、知識を得た気分で満足してしまう。売れている本ばかりを追いかけ、昔からある名作には手がでない。本の上辺だけをすくい取り、分かった気になる。僕自身、こういう向き合い方をしてきたので、考えさせられることも多かったです。
本書ではこうした考えや風潮に対して、林太郎たちの言葉から「やっぱり本って素敵だよね」と思わせてくれます。僕のように少し本から遠ざかっていた人はもちろん、読書なんかほとんどしたことがないという方にもぜひ読んでいただきたいです!
きっとすぐに新しい本を読みたくなるはずです!
閉じ込める者
閉じ込める者では、本は読んだ量が何よりも大切であり、どれだけ大量の本を読んだかがその人の価値を決めると考えている人物と対話することになります。
本作で登場する迷宮のボスの中で、僕の感覚に一番近い人物でもありました。
主にビジネス書ではありますが、最初は知らないことを知るために、勉強のために読んでいましたが、いつの間にかどれだけ多くの本を読めるか?という読み方になってしまい、空しくなって一切本を読まなくなったことがあります。
その時の自分を重ねながら、林太郎の言葉を聞くことで、空しくなってしまった理由の言語化ができたと思います。
切りきざむ者
切りきざむ者では、忙しくて本を読む暇がない現代人に、本の重要な要素を抽出しその魅力を多くの人に届けたいと考えている人物と対話します。
本の要約こそが本の生き残る道であり、多くの魅力的な作品を世に残すことができるという主張は、ショートムービーやそれに近いコンテンツの人気が高まっている現代への皮肉のようなものを感じました。
音楽と本を重ねた論調は少し乱暴に聞こえましたが、納得する部分もありました。
売りさばく者
売りさばく者では、本は売れることが全てであり、その中身はどうでも良いと考えている人物と対話します。
これは仕事と向き合うすべての人が考えさせられるテーマだと思います。ミッションやビジョン、企業理念・サービス理念などを掲げる組織は非常に多いですが、ふたを開けてみると目先の数字を追ってしまっていることはよくあります。
きれいごとに聞こえるかもしれませんが、そのきれいごとをトップの人間が語らなければ、何にもならないというのを、林太郎に諭されている気分になりました。
最後の迷宮
最後の迷宮では、長年読まれ続けてきた名著が擬人化しています。
本には読んだ人の想いが宿っていき、それは「思いを込めて本を読んだ人の数×読まれた年月」によって大きくなっていくと語り、本を手に取る人が時代とともに少なくなる中、本を大切にし、思いを込めて読む人はより少なくなっていると憂います。
この話は、ただただ耳が痛くなるばかりでした。”思いを込めて本を読む”なんてことを最後にしたのはいつだろうと考えてみると、子どものころまで遡らないとないかもしれません。しかも絵本や漫画ですw
純粋な気持ちで本を読み、一冊を繰り返し読むことで行間を考え自分なりに解釈する、こんな読み方ができると素敵なんだろうなと感じました。
トラネコの正体
僕なりにトラネコの正体について考えてみます。
最初はベタにおじいさん(主人公の祖父)がトラネコになって表れたのだと思っていたのですが、会話の内容やトラネコの雰囲気から、おそらく違うのだと思います。
あとがきを読むと、様々な作品のオマージュが入っているようなので、もしかすると読書家であればトラネコの元ネタが分かるのかもしれませんが、僕はそうした知識が全くないため本書を読んだ感想としてまとめていきます。
最後の迷宮に向かう道中で林太郎が「昔読んだ絵本に出てきたような気がする。」と思いだすようなシーンがあります。そのまま受け取ると、昔から親しまれている、読み継がれている絵本が擬人化ならぬ擬猫化した正体がトラネコということになります。
ただ、これだとあまりにストレートな気がするので、少し穿った見方をしてみます。
そうして考えると”祖父の死という失意の中で、林太郎が無意識に生み出した、自身の分身”なのではないかと思えてきます。
トラネコの祖父や林太郎に対する信頼は説明できますし、トラネコから発せられる言葉は林太郎が今欲しい言葉にも聞こえるため、分身であれば納得できます。
そして何より、本を大切にし真剣に向き合ってきた林太郎だからこそ、心の拠り所を無くし、後の人生を左右するタイミングで、トラネコ(自身の分身)を異世界から呼び寄せることができた。と考えると、本を守る猫の話らしいファンタジーさも感じられます。
本を守ろうとする猫の話の名言
この本は考えさせられるセリフが多く出てきますが、特にお気に入りの2つのシーンから明言をご紹介します。
まずは、1人目のボスと対峙している時に林太郎が思い出した祖父の言葉です。
「たくさんの本を読むことはよい。けれども勘違いしてはいけないことがある」
「本には大きな力がある。けれどもそれは、あくまで本の力であって、お前の力ではない」
「ただがむしゃらに本を読めば、その分だけ見える世界が広がるわけではない。どれほど多くの知識を詰め込んでも、お前が自分の頭で考え、自分の足で歩かなければ、すべては空虚な借り物でしかないのだよ」
先ほども触れましたが、僕自身がむしゃらにビジネス書を読んでいた時期があり、この言葉はとても印象に残っています。読んだものをいかに昇華させていくかが大事だと強く感じます。
もう1つは、最終章で林太郎が幼馴染の柚木沙耶に言ったセリフです。
「読んで難しいと感じたなら、それは柚木にとって新しいことが書いてあるから難しいんだ。難しい本に出会ったならそれはチャンスだよ」
「読みやすいってことは、それは柚木にとって知っていることが書いてあるから読みやすいんだ。難しいってことは新しいことが書いてある証拠だよ」
難しいことが書いてある本はついつい敬遠しがちですが、新しい価値観や知識を得ようと思うと避けては通れないものだと思います。僕はそういった難しい本を避け続けた結果、本がつまらないものと感じてしまった時期があり、今ではとても後悔しています。
この言葉は、いつもとは違うタイプの本を手に取る多くの人にとって励みになるものだと思います。
本を守ろうとする猫の基本情報とレビュー
最後に、本書の基本情報とレビューをご紹介します。
- 発刊年・作者・出版社・ページ数
- レビュー
発刊年・作者・出版社・ページ数
発刊年 | 2017年 |
作者 | 夏川 草介 |
ページ数 | 224ページ |
出版社 | 小学館 |
本を守ろうとする猫の話は、下記Amazonのページから購入することができます。

レビュー
2024年10月31日時点のレビューは次のようになっています。
Amazonn:4.3(レビュー数124)
ブックライブ:4.0(レビュー数33)
読書メーター:レビュー数2093
Xのレビューもいくつか抜粋してみます。
本を守ろうとする猫の話のあらすじと感想・考察・見どころまとめ
- あらすじと見どころ
- 『本を守ろうとする猫の話』は、祖父を亡くした高校生の林太郎と、しゃべるトラネコが出会い、本の世界を守る冒険をする物語
- 読者に「本とは何か」「読書とは何か」を問いかけている
- 林太郎は近年みられる本に対する価値観を前に、自分なりの答えを導き出す
- 林太郎が語る本の魅力や信念を持った人物同士の会話を通じて、読者が本や読書について考えさせられる点が魅力
- 林太郎が同級生の柚木に伝えた言葉が最も印象的
- 主な登場人物
- 主人公の夏木林太郎、トラネコ、先輩の秋葉良太、幼馴染の柚木沙耶
- 感想と考察
- 第1の迷宮は本を読むことについて考えさせられた
- 第2の迷宮は手軽なコンテンツへの皮肉に思えた
- 第3の迷宮は仕事に向き合う全ての人に考えてほしい
- 最後の迷宮は純粋な気持ちで本を読むことを訴えかけている気がする
- トラネコの正体は、林太郎の無意識が生み出した分身と予想
- 祖父からの言葉、柚木への言葉がお気に入り
- 基本情報
- 2017年発刊、作者は夏川草介
- Amazonで4.3(レビュー数124)、ブックライブで4.0(レビュー数33)の高評価